報告 菊地顕一




「ポキリッ・・・」 心が折れる音がした・・・。

だって、ぜんぜん釣れないんですもの・・・。もう集中力のカケラも無くなりました・・・。
今シーズンの最終釣行は大石川西俣である。
大熊小屋に泊まってイワナ釣って、食って飲んで歌って踊りまくるというウハウハな企画なのであった。それはまるでクリスマスを指折り数えて心待ちにしている子供のように、とてもとても楽しみにしていた釣行であった。
「だのに〜なぜ〜?なぜ釣れないの〜?」
「顕一ぃ〜、今年のクリスマスプレゼントは来年の誕生日プレゼントと合わせ技だからね!」と意味不明なことを母親から言われ絶望感に打ちひしがれた、幼少期のワタシと同じワタシが、大石川西俣にはいた・・・。



9月22日(金)

「グェ〜ホ、ゴホッ、ゴホッ〜、オエッ!」 信さん(隊長)の嘔吐まじりの咳が深夜の大石ダム駐車場に響きわたる。
「信さん、だいじょ〜ぶすか?」
「やっぱ調子わり〜や、オレ先に寝るわ。」
よっぽど調子が悪いのか、入山祝いの酒も飲まずに信さんは車に潜り込んだ。
「大丈夫かな〜?」「咳ひどいよね〜。」などとワタシと敏ちゃんは咳ネタをツマミに酒を飲みだしたが、いまいち盛り上がらず缶チューハイ1本を飲み干したところで仮眠をとりに車の中へ入る。
「ゴホ〜ッ、ゴホッ、ゴホッ・・・オエッ〜!」 内臓が全部出てしまいそうな咳は明け方まで続いてた・・・。ホント大丈夫かなぁ。

朝5時に目を覚ますと、信さんはやっと寝付けたようでグーグーと寝息を立てている。外でダムを眺めながら一人タバコを吹かしていると、ザックを背負った3人組が通りすぎた。声をかけてみると、大熊小屋に泊まるらしい。
「こっ、小屋で他のグループを気にして宴会をするのもなんなんだな。こっ、今年最後の釣りだし、のっ、信さんも調子悪いみたいだし、中ノ俣川出合のテン場で河原宴会がいいと僕は思うんだな。なんたって、近いんだな!」などと湖岸でひとり、山下清のモノマネをしていると信さんが起きてきた。

「調子悪いみたいだし、中ノ俣のテン場にしません??2時間で着いちゃうみたいだし!」
「う〜ん、この調子じゃ大熊小屋まで歩く気力ないかもな。そうするか!」 
先週は秩父入川千丈の滝上まで6時間半えんえんと歩き、今週も5時間の歩きかよ〜、と思ってた矢先の超アプローチ短縮。ワタシの脳内はドーパミン出まくり出しまくりの、やる気マンマン状態である。
            
  
心なしかいつもより支度がゆっくりな隊長                      やる気マンマンの菊地(奥)

支度を整えダムの上を歩き始めると、湖岸右手奥に滝倉沢に架かる赤い吊り橋が見える。
「ほんとにアソコまで40分かかるぅ〜?近いじゃん、近いじゃん、すぐそこじゃん。」と心の中で連呼する。「大したもん蛇」が吊るされているトンネルを抜け、ダム左岸のアスファルト道をテクテクテクテク クネクネクネクネ、テクテクテクテク クネクネクネクネ・・・と歩き、アスファルト道にもいい加減うんざりした頃、滝倉橋に着いた。 ホントだ、40分近くかかってら。

東俣川と西俣川を分けるカメさん
  
登山者記録のノートにしっかりと記入                   滝倉橋を渡る  いよいよ登山道だ

(中の俣まで) 2時間−40分=1時間20分。小学校低学年でもわかる計算。
「あと1時間ちょい歩いただけで、テン場に着いちゃうわけ〜♪ どんだけ〜♪」と脳内では相変わらずドーパミンが放出されている。

杁差岳へと向かう登山道は2、3箇所ヤバげな所があるものの、しっかりとした道がついている。岩盤を削ったところを登りきるとイズグチ沢の出合いだ。眼下に西俣川と中ノ俣川との出合いの杉林が見える。イズグチ沢の対岸はすぐそこにあるのだが、登山道は沢の上流に向かって回り込み、「ガー」っと一気に沢床をめがけてくだり、沢を渡るとまたしても「ンガーッ」と一気に登り返す。ああ、しんど・・・。

  
足を滑らせたら谷底まで真っさかさま!                   う〜ん、やっぱ調子イマイチだな〜。

イズグチ沢をぐる〜っと回り込む登山道

「林道大石線終点」のポールが立っている少し先に雨量観測所への径がついていて、そこから西俣川へ下降する。頭の中は「何がなんでも河原宴会!」なので、中ノ俣川出合いの杉林の台地をテン場に決めた。

「さぁ釣りだっ!さぁ釣りだっ!」脳内では今もなおドーパミンが放出され続けている・・・。
はやる気持ちを抑えタープを張って寝床を整えてから、空身でいよいよ釣りの開始である。

テン場からの西俣川は瀬続きの渓相でテンカラ向きである。ちょっとした落ち込みの脇の、ちょっとした溜りに毛鉤を打ち込むと、流れるラインが止まった。「キターッ!」アワセをくれると「ビョ〜ン」とすっ飛んで来たのは7寸のイワナ。
「小っちゃ〜!」大石川初の記念すべき1匹であったが写真も撮らずにリリース。その後、信さんと交互に釣りあがるもアタリがまったくなし!

ワタシの脳内では次第にネガティブな気持ちを引き起こす脳内物質「ノルアドレナリン」が分泌されはじめ、一気に気持ちが落ち込んでくる。  「ポキッ・・・」 何かが折れる音がした・・・。

  
瀬続きでテンカラ向きの渓相ではあるが・・・

「西俣は明日じっくりやることにして、中ノ俣でもやってみようか?」と信さん。
「アタリすらないんじゃねー、そうしましょうか。」とワタシ。 さっさと川をくだり中ノ俣へ急ぐ。
さぁ、気持ちを切り替えてオカズを確保しよう。
中ノ俣に入渓したとたん、信さんのラインが止まる。「バシッ・・・。」上がってきたのは2寸弱のイワナ・・・。
「一応、サカナは居る・・・みたいですね・・・。」

「ちょっと早いけど、帰って宴会の準備でもする?」「そ、そうですね、そうしましょう・・・。」
二人とも完全に心が折れてしまった・・・。


心が折れるキッカケとなったチビイワナ

イワナ料理のない宴会も久しぶりだが、たまにはいいだろう。ツマミは充分に持ってきた。イワナがないぶんだけ宴会の支度も早い。そんな訳で4時半に宴会スタート。こってり系のツマミにビール・ワイン・焼酎と酒が進む。辺りが暗くなり始める頃にはいい具合で酔いがまわって撃沈・・・。
「もう寝よか・・・。」「そうしまひょ!」 時計を見ると、まだ6時半。渓での早寝新記録を作ってしまった。
  
釣れなくても酒はウメ〜や!                        焚き火でパスタを茹でましょ〜♪

  
今年大ブレイクの「オクラとミョウガのおかか和えと「男の肉じゃが」

  
久々の「鴨ネギ焼き」 と「カルボナーラ」

  
んでもって、二人とも撃沈・・・



9月23日(土)

あれだけ早く寝たもんだから朝3時半に起きてしまった。その後2度寝しようと思ったがさすがに寝付けず、火をおこして洗い物を済ませ、みんなが起きるのを待つ。空を見上げると満天の星。今日も天気が良さそうだ!

朝食をパパッと済ませ、今日は一日釣り三昧。今シーズン最終日となるのだから、思う存分に竿を振り渓を満喫したい。
と言うか、今日は絶対イワナを釣らなきゃイカンのである。釣れなきゃ信さんの「イワナ料理秋の新メニュー」の正体が来年まで持ち越されてしてしまうのだから・・・。
今日はゼカイ沢出合いあたりまで釣りのぼる予定だ。天気も良く快適に竿を振るも相変わらずアタリは無い。
ふと、砂地に目を移すと、「ん?足跡?」その先の岩の上には、「たったいま人が通ったよ〜」ってくらい瑞々しい足跡が・・・。先行者がいたのである。
 「ボキッ・・・」 今日はたったの2時間で心が折れてしまった。ワタシの西俣川での釣りは終わった・・・。
  
よし準備OKだ!行くぞ!                           朝の陽の光を受け進む

  
ズンズン進む                                 ヘツリの練習だ!


なかなかどうして、見事な足さばき!

「ちきしょー!それじゃ、中ノ俣!」ってな具合に、信さん秋の新メニュー食いたさに、ほんのわずかに残っている気力をふりしぼる。
「これって昨日と同じパターン?」とイヤ〜な予感がしたが、小さいながらもポツポツ釣れ始め何とか気力は保てそうだ。しかし、キープサイズがなかなか出ない。
「バシッ!」信さんの竿がしなる。「うお〜、でけー!」と思ったが、よく見ると8寸ほどのイワナ。ずっとミニサイズしか見てなかったもんだから目が錯覚をおこしているらしい。その後、もう1尾キープサイズを追加し最初に現れた滝で納竿。
「よかった、よかった、何とか秋の新メニューが食えそうだ!」
    
来るのはこのサイズばかり                                  やっとキープサイズが来た

  
中ノ俣を釣りあがる二人

  

ヌメリツバタケモドキ発見! みそ汁の具にしよっと                                  3m滝で納竿

最後の夜は盛大に飲ろう!今シーズン、渓での最後の夜なのだから!
今宵の日替わりパスタは、今シーズンも楽しく渓で遊んでもらった隊長に感謝の意を込めて、信さんの好きな「ペンネ・アラビアータ」とした。もちろんパルミジャーノレッジャーノを目の前ですりおろし、ふんだんに使った最終日にふさわしい一品である。
「ハッ、秋の新メニューは?」と信さんをみると仕込みの真っ最中だ。酢飯用のゴハン炊いてって言ってたから寿司系だろう。
ん、何やらタレにイワナの切り身を漬けているぞ。イワナのヅケ握り?それは前にも作ったことあるしなぁ〜?

「じゃ〜ん!どうぞ召し上がれ〜。」一見、フツ〜のイワナのヅケ握りにしか見えない。「んじゃ。」と一口ほおばると「ピリリッ!」とした辛さが舌に伝わる。
「イワナのべっ甲漬けの握りだよ。この前テレビで伊豆大島の特集やっててさ。大島の伝統料理『鯛のべっ甲漬け』をイワナでやったら絶対ウマイと思ってさ。」 さすが信さん・・・。その辺の嗅覚は鋭い・・・。イワナの美味しさと醤油がなじみ、青唐辛子のすっきりとした辛さがとても美味しゅうございました。
心地よい沢の水音を聞きながら酒を飲み、今年一年の釣りを振り返る。 しかし振り返るヒマもなく、いつもどおりクニャっとしながら撃沈するワタシであった。
  
感謝の意を込めた「ペンネ・アラビアータ」                 ペンネの余ったソースも無駄にはしませんよ「チーズ焼き」

  
敏ちゃん特製「きんぴらごぼう」                      隊長秋の新メニュー「イワナのべっ甲漬」の握り




9月24日(日)

最終日は帰るだけである。しかも2時間歩けば車止めってのがヒジョーに嬉しい。敏ちゃんが昼のお弁当に握ってくれた「塩こんぶ混ぜオニギリ」を各自2個ずつ持ち、3日間お世話になったテン場に礼をして帰路につく。
途中、登りは強いが下りは苦手な敏ちゃんから「登りのメダリスト、下りのヘタリスト」といった名言も飛び出し、ワイワイ言いながら大石ダムに向かって歩いていった。
滝倉橋からダムまでのアスファルト道が帰りの足には堪える。やっとトンネルにつき、「大したもん蛇」の前でお決まりの記念撮影。9月最後の連休もあってか、ダム駐車場には観光客の車が沢山止まっていた。
  
スキップしちゃアブナイよ〜!                   登山道から西俣川の流れを望む


お決まりの場所で記念撮影  

無事下山し、3日間溜まった垢を流すべく渓美隊おきまりの「桂の関温泉ゆ〜む」へ直行。さっぱりした後は腹が減る。肉食の渓美隊だから当然、山から下りてもしっかり肉を食べる。久々の越後川口SA「越後もち豚カツ丼」は相も変わらず美味であった。


関越道上り 越後川口SAの「越後もち豚カツ丼」 862円(税込み)でボリューム満点!



ワタシはひと足先に禁漁期に入ります。今シーズン最後を飾ってくれた大石川西俣よありがとう!でも、当分は来ないだろう・・・。いや、もう来ないかもしれないな。たぶん・・・。きっと・・・。