報告 ゲン



お世話になっている小峰さんを通じて現川越渓美隊の面々と知り合ったのは、たしか2002年秋の中里村。それ以来、顔を合わせるたびに「近々ぜひ一緒に」などと言ってはいたものの、なかなかそのチャンスがないままm時は流れていた。
そんな2009年の夏、完全遡行を狙う小峰パーティーの一員として入渓した魚野川は黒沢で、図らずも川越渓美隊パーティーと一夜を共に(ってそういう意味ではないですよ)することができた。その山行は2日連続の雷雨→停滞→増水→テン場水没寸前→やけくそ宴会→結局撤退・・・と散々な結果ではあった。しかし、どんな状況でも楽しめるのが取り柄のこの私、宴会料理に精を出し、貰い酒も進み・・・と調子に乗っていたのが良かったのか悪かったのか、9月初めの早出川と大深沢にご一緒させていただくことになった。
今回の計画は、山越えで入渓して渓中2泊、その後稜線に上がり避難小屋でさらに1泊して下山、という沢旅的な計画だ。今シーズンの最後にふさわしいルートを底抜けに楽しい渓美隊の面々と歩けると思うと、期待で39度の熱を出してしまう子供なゲンであった・・・。
さて、なんとか熱も下がって迎えた9月17日。東川口駅に集合した後は八幡平を目指し600キロの道のりをひたすら運転。到着寸前に雲海からの日の出を拝み、6時頃に入渓点にたどりつく。
今回の入山ルートに選んだのは北ノ又川支流の赤沢。うまくいけば1時間前後で大深山荘に出られるはずだ。遡リ「始めた沢は赤沢の名の通りに赤く染まった石だらけ。そういえばこのあたりの地形図を見ると狭い範囲に赤川や赤沢といった地名がたくさん見つかる。温泉の多いこのエリアの特徴なのだろう。
そんな真っ赤な川なので歩いて楽しいかどうかは置いておくが、とにかく歩きやすいことこの上ない。どの岩もフリクション抜群で水もチョロチョロ程度。手も使わず脚も濡らさずに歩くうち、1時間ほどで首尾よく大深山荘横に出てしまった。
拍子抜けするほど快適な入山ルートに驚きつつ、まずは3泊目に利用するかもしれない大深山荘の偵察だ。小屋は驚くほどきれいだし、ウッドデッキまである。ベンチというものは一般の方々には単なる長椅子でしかないが、基本的に地ベタで飲んでいる我々にとっては立派な宴会テーブルということになる。3泊目の宴会場として申し分ないことが確認でき、一同ニコニコ顔だ。
しばし休憩のあと、下降点にむけて稜線歩きをスタートする。目指すは2.5キロ先の仮戸沢源頭、嶮岨森を越えた先の鞍部だ。
よく手入れされた道はアップダウンもなくとにかく楽。とぎれなく馬鹿っ話をしながら進むと右下に四角い鏡沼が見えてきた。この標高ではそろそろ紅葉もはじまりかけていて、錦秋の美しさを予感させる。
標高1448mの嶮岨森は森とは名ばかりのハイマツ帯だ。葉をちぎって爽やかな香りを楽しみながらすすむ。あっという間に仮戸沢源頭へ到着。この鞍部は穏やかな地形で「ここが下降点ですよ」という目標物はない。というわけで、適当に見当をつけてネマガリの藪に飛び込む。幸いそれほど濃い藪ではなく、低い方を探りながら歩くと15分ほどで水流に出た。このあとも緩やかな地形が続き、ちょろちょろと流れる曲がりくねった水線を追うことになる。
緊張するネタといえば、ところどころに見られる熊の痕跡くらい。逢いたいような逢いたくないような・・・。
春の小川な源頭を過ぎ、やっと沢らしくなってきたと思ったらあっという間に目的の三俣に出てしまった。さー、重たいザックを放り出して宴会だ!と思ったらまだ午前中。そりゃいくらなんでも早すぎる。いや、飲むのには早い時間だというモラルの問題ではない。なにしろ今回は3泊の日程。今から飛ばしていては酒がなくなってしまうのだ。
そんなわけで、二手に分かれてオカズの調達へ行くことにする。ノブさんと佐藤くんが東ノ又沢へ、ケンさんと自分が北ノ又沢へ入ることになった。水量も少ないのですぐに竿を出しながら進む。魚は少なくないようで、ケンさんのテンカラには次々と掛かってくる。しかしどれも20センチに満たないような小物ばかり。ちょっとした落ち込みなどではルアーも試したが、これといったサイズは出てこなかった。
ほどなく2段の滝下に出る。やさしいケンさんが譲ってくれたが、反応なし。頭から水をかぶりながら滝裏に突っ込んで。ルアーの救出を試みたりしていたらすっかり冷えてしまった。いかんいかん、昨日まで高熱があったのを忘れていた。
滝を巻いて進むのもめんどくさいということで、さっさとテン場に戻ることにした。東ノ又も同じような状況だったようだが、おかずになる程度は魚もある。水際の小さな平地でいそいそと仕込みを始め、ツマミができたらお待ちかねの乾杯だ!
さあ。ツマミが冷めないうちに・・・と思ったがそうはいかない。川越渓美隊のしきたり(?)なのか、最初に乾杯するときには必ず念入りな撮影があるのだ。楽しい仲間たちのしきたりに、今夜は喜んで従おう。
初日の宴会は肉も多い。さすがは渓美隊。テン場裏には食べきれないほどのナラタケがあったので、これもありがたく頂いた。


埼玉から600キロをひた走り、八幡平樹海ラインからの朝焼け


フリクション抜群で鼻歌まじりルンルンの詰めだ


裏岩手縦走路からの鏡沼


嶮岨森から仮戸沢コルへの下降路 すでに紅葉が始まっている



ネマガリの藪漕ぎで仮戸沢への下降が始まる


特に悪いところもなくガンガン下って行く


三俣テン場裏のナラタケ群生 山の基本は地産地消です♪


 大深沢での初モノをゲットー!


風邪っぴきなのを忘れ、前身に水を浴びながら滝裏にてルアーの救出を試みるゲンちゃん





魚は多い、しかしこのサイズで大物


さあ、初日の宴会の始まりだ!!


ゲンちゃんの『サバ缶とセロリのマヨネーズ和え』 非常に美味、センスを感じるなぁ・・・


久々の『カモネギ』
 ネギがジュクジュクしてきたら食べごろ・・・早く食べてぇ〜


サトーくん作『タンドリーチキン』
 山でタンドリーですよん!!


キャベツとアンチョビのパスタを仕込んじゃうよ〜!


ゲンちゃん、もー寝ちゃうのー?寝ちゃイヤだよ〜!

  
 
あけて2日目、今日もいい天気。いつもながら美味しい「サトウのゴハン」をいただき、のんびりと出発。三俣周辺は全体が大きな岩盤になっていて傾斜も緩く歩きやすい。
スキップで下っていくとすぐに通称ナイアガラ滝上部に出る。落ち口自体50mほどの幅があるだろうか。右岸沿いを降りられそうだが、よく見るとルートが切れているのが解る。手がかりにできるブッシュがあり、頼りなげなトラロープもセットされているのは滝のど真ん中にある一段低くなった部分だ。佐藤くんがスタンスを探りながら降りていき、後続に指示を出してくれる。サンキュー!
降りてみると、たしかにナイアガラっぽい雰囲気ではある。ホンモノ見たことないけど・・・。
ならんで記念撮影するが逆光なのでいまいち写りが悪く、隊長はどうも納得がいかないご様子で腕組みしている。と、佐藤くんの坊主頭を見てなにやらひらめいたらしく細かな指示を出している。そしてはじまった撮影会・・・。


2日目沢旅の出発だー!『グットポーズ旧中里村スタイル』で朝からテンション高いぜぃ!


名物『ナイアガラの滝』実際見ると案外落差あるのね


佐藤くんスルスルと下り後続を指示


『ナイアガラの滝』の全景

ふと振り返ると・・・見てしまった・・・
大深沢に住み着く生首の亡霊たちを・・・


生首ひ〜とつ


生首ふ〜たつ


生首み〜っつ


そうです!!おバカちゃん達で〜す♪

1時間近くもおバカな撮影を楽しんで、ようやく下降を開始した。関東沢の出合の二俣までは1キロもないのですぐに着いてしまう。ここからは竿を出しつつのんびりと関東沢を遡行だ。
テンカラの3人には次々と掛かってくる。しかし・・・とにかくチビッ子が多い。アワセと同時に飛んできてしまうような可愛い子ばかりだ。そんなサイズに目が慣れて、たまに7寸くらいが掛かると「お、いいサイズ!」などと思ってしまうほど。いい魚がいるらしいと聞いていただけに皆「???」となっている。
そうこうするうちにテン場予定の出合に着いてしまった。ここは広々とした理想的なテン場だ。さっさと整地をすませ、さらに上流へ遊びに行く。さすがにこのあたりではキープサイズもあがり、おかず確保で一安心。意気揚々と引き上げて、今夜も楽しい宴会だ。


関東沢出合の二俣


こんなチビのために竿折っちゃいました(悲)


予備竿の30年前のグラスロッド『DAIWA清瀬』をテンカラ竿にしてしつこく釣る


数は出るものの、ひと口サイズばっかり


2日目の宴会も勢いよく開始だーーー!!

 
見た目は悪いが味はイケる『コンビーフパスタ』            ヘルシー系メニュー『みょうがとオクラのおかか和え』

 
カルパッチョに生ライムを添えて                    ナラタケの卵とじ


『激辛グリーンカレー&ナン』 翌朝ヤラレました・・・


3日目もよく晴れてすがすがしい朝。晴れていたわりには気温も低くない。前々回の魚野川、前回の早出川ともに「大雨→増水→停滞」というパターンを繰り返していたのがウソのようだ。ついでに言うと、仮戸沢下降を始めてから他のパーティーには会っていない。沢に響くのは僕らの馬鹿笑いだけ。とにかく気分が良い。5連休なのに1日フライングするというイカれたスケジューリングのおかげだろう。
さて、今夜は八瀬森まで詰めた後に稜線を歩いて大深山荘泊まり。人も多いだろうからお行儀よくしなくてはならない。なんでもありの渓中のテン場に名残を惜しみつつ、日が高くなってから出発した。八瀬森山荘近くの湿原へつながる沢は関東沢出合からすでに水量も少なく、楽な歩きだ。途中、多少傾斜のある部分もあるが特に問題はなし。だんだんと湿原ぽくなり流れが蛇行を始めると、一気に熊の気配が濃くなる。デカイ熊の寝床なのか、若い熊が楽しい一夜をすごした跡なのか良くわからないが、6畳ほどのスペースの草がすべてなぎ倒されていたりするのだ。しかし、佐藤くんは意に介する様子もなく藪に突っ込んでは、せっせとナラタケを採っている。昨日あんなに食べたっていうのに・・・。まったく、欲望に忠実な男である。佐藤くんのコンビニ袋がだいぶ膨らんできたころ、流れは途切れて草原に出た。
八瀬森山荘では反対側の葛根田川から詰めてきたパーティーもいた。とても楽だった大深側と違って葛根田側はものすごい藪だったとかで、肩で息をしている。藪漕ぎ数時間なんて、あたしゃごめんです。
この先、大深山荘までは約7.5キロ。だらだらと450mほど登らねばならないこともあり、意外と長く感じる。エアリアマップには「倒木が多く歩きにくい」と書かれていたが、実際に歩いてみると確かにいっぱいある倒木はチェーンソーで歩きやすく切られていてちっとも歩きにくくなんかない。しかも、かなり丁寧な仕事ぶりである。作業してくれた方に感謝すると同時に、そのコストは誰が負担しているんだろうと複雑な気持ちになる。
この道のりは「森を抜けると開けた稜線に出る」というパターンの繰り返しで景色がどんどん変わっていくので飽きることはない。まあ、長いことは変わりないけど。急ぐ旅ではないと、ところどころで撮影などしつつのんびりと行く。


3日目朝の風景  極上のテン場をもお別れ


八瀬森の湿原へ突き上げる小沢を詰める


詰め上げた草原はもう秋の色 青空とのコントラストが眩しい


八瀬森山荘 2階建ての立派な避難小屋で宴会してみたい・・・


ワレワレは渓とネオン街の愛と平和を守る『川越渓美隊』だー。スペシウム光線・・・シュワッチ!!


関東沢支沢からの詰めは、こういった草原に出るようだ


天気もいいし、気持ちの良い稜線歩きだ


大深岳手前の稜線から岩手山を望む


最後の登り・・・大深岳はもう少しだ!


大深山荘に着いたのは16時前。この段階で小屋にはかなりの人がいる。とりあえず寝場所と宴会スペースの確保・水汲みなどとやっている間にも続々と登山者が集まってくる。さすがは5連休、大賑わいである。ついには入りきれないほどの人数になったが、さすがに遅く来るパーティーはテントやツェルトなどを持っているので問題はない。
さあ、今夜は初日に確認したベンチ、いやテーブルで宴会だ。渓中と違って焚火もないし大騒ぎもムリ。けれど、稜線上だけに星は最高に綺麗。おまけに風もなく快適だ。
標高1430mとあって少々冷えるが、残りの食材やたくさん採ったナラタケで次々と料理を作り、隠し酒なども取り出して飲み始めれば寒さなどどうってこともない。大深沢での3日間を振り返りながら語り合ううちにあっという間に深夜となる。ケンさんのみ、梯子上の寝床は危険ということで外に寝かしつけ、残る3人は小屋で寝る。小屋の中は人口密度が高くかなりあったかい。寝袋が暑くて目が覚めてしまったほどだ。
目覚めたついでに外のケンさんを見に行く。徘徊してどこかに落ちていたりしたら面倒だ。近寄ってみるとおとなしく寝ているようなので安心して引き上げようとすると、もぞもぞと起きだしてきた。どうやら飲み足りないらしい。「なーんだ、それじゃあやりますか」ということで再び飲み始めてしまった。よく見れば酒も結構残っているし作りっぱなしのツマミもいろいろある。
かなりまじめに語っていたかと思ったら、突然立ち上がって別のパーティーのテントすれすれに立ちションするケンさん。あのー、最近「ケンちゃんゲンちゃん」ということで括られてますので、たいがいにしてくださいよ・・・。そんなこんなですべての酒を飲み尽くし、これ以上ケンさんが酔っぱらう恐れもなくなったので、安心して寝ることにする。



他のパーティーもいるから、お行儀よくしなくちゃね♪

 
だぶん渓美隊初の韓国ツマミ、隊長作『トッポギ』
        ゲンちゃん作:ズッキーニとイタリアンサラミの炒めもの

 
サトーくん作:酢豚                                  菊地作:何でもありあり残り物シチューパスタ

 
サラミとネギの辛味和え                          ヘルシーに海藻サラダ♪


んでもって今宵もドカンとナラタケ炒め



2次会風景 なるべく静かにしてたつもりですが、ご就寝のみなさんゴメンナサイ・・・


最終日、あとはアプローチに使った沢を下るだけ。気楽なものだ。なにしろ1時間しかかからないし。
この山行が終わってしまうのが惜しいのか、皆いつになくゆっくりと降りていく。木々をみると、3日前遡ってきた時よりも紅葉が進んでいる気がする。どんどん秋が深まっていくのだなぁ。そんなことを話しながら歩いていると、前を行くケンさんが突然岩の上でスリップ。横向きに落ちたかと思ったらパキーンという乾いた音が!あわてて駆け寄ったが体は無事。じゃああの音は?と周りを見ると、長年沢で使い続けてきたというカップが粉々になっていた。とっても残念だけど、身代わりになってくれたのかもね。
車止めまではあとすこし、気をつけて歩きましょう。


最終日、本日も晴天ナリ  1時間で車止め・・・ラクチンラクチン♪

ほどなくして、ついに入渓点の堰堤が見えてしまった。全員との握手で、底抜けに楽しい仲間たちと過ごした4日間の沢旅は終わった。今年の沢を締めくくるにふさわしいフィナーレだ。
ここ数年やや沢から遠ざかっていた自分だが、この旅で再びなにか火がついた気がする。来シーズンも川越渓美隊と一緒にあちこち歩きたいものだ。東京までの600キロ、そんなことを考えていた。以後、よろしくお願いします!


シルバーウィークの東北自動車道渋滞に辟易し那須塩原で降りる おかげで美味しい宇都宮餃子が食べられました♪