報告 ゲン



あー、早く沢行きてぇ・・・6月から沢に行けていない僕は念仏のように唱えていた。35度近い日々が続く東京では、何をするのも苦行だ。おまけに今年は震災の影響で電力不足。ありがたいことに、そんな時に限って仕事は目白押しで盆休みすらなし。子供の時以来のアセモをぼりぼり掻きながら朦朧とした頭で夢見るのは沢でのゴロ寝。
・・・涼風の吹く水辺で早めの焚火を起こしてゴロゴロ。もちろん片手にはビール。たまに飛んでくるヤブ蚊を叩きつつぼんやりと夕焼け空を見上げていると、獲物をぶら下げた仲間で上流から帰ってくる。さあ、今宵も宴会スタートだ・・・嗚呼!!これは病気だ。さっさと山に行かねばおかしくなってしまう。
先週は別の沢に入る予定だったが、残念ながら入山直前の大雨で敗退。オアズケをくらって妄想病はさらに悪化。さあ、今週こそ沢で思い切り涼めるぞ! 仕事をやりくりして3連休に1日のオプションを加えることのできた3人(ケンさん・佐藤くん・ゲン)で室谷の入山地点を目指す。
数時間のドライブでたどり着いた車止め。外に出て念願の山の空気を思い切り味わう。うん、たしかに気持ちいい空気だ。しかしながら・・・夜中だというのに暑い。夢に見ていたのとは若干のズレがあるがまあよい。本当に今年も秋がやってくるのかと不安に感じながら朝を待つ。
明けて5時半。3泊分の宴会装備でパンパンのザックを担いだ3人は、すでに調子の乗っている太陽に炙られながら一ノ俣越えにとりかかる。渓美隊としては2年ぶりの早出川であるが、全員この道には慣れている。いつものルートを快調に進み、9時過ぎには最後の滑滝をかけおりて今早出の流れにたどりついた。
しかし、みんなで歓声を上げて飛び込もうと思った懐かしい流れには、ヌルーい水が申し訳程度にあるだけだった。ひとたび雨が降れば名物(?)の一気増水をみせてくれる早出川だが、今日はいままで見たこともない程に減水している。4日間に不安を覚えつつ、まずはいつものテン場を確保に向かう。今回は一日遅れでやってくる3人を加えた6人でのんびりとガンガラシバナ詣という最高に楽しい計画なのだ。暑さにやられ気味だが、まずはテン場のセッティングを済ませて一安心。


車止めにて  2年ぶりの早出にミョ〜なテンションのケンさん


こちらがたぶん正しいテンションである  さぁ、下界を離れて4日間思いっきり楽しむぞ!


今夏の大雨の影響か、流木が沢を埋め尽くす


一ノ俣越えはずっと水線通しで  早いし涼しいよ♪


いくつかある滝もすべて直登できる


アカバ沢から今早出沢に下り立つ  沢水はいままでに見たことない減水ぶり


テン場についたぞ〜! さあさあ、タープでこの4日間の基地を設営だ

まだまだ昼にもならないので、ひさしぶりにイワナちゃんに遊んでもらえそうだ。「もう歩くのだりーから今早出で遊ぼーよ」と提案するが「明日くるセンパイ(高橋隊長)にとっておかなきゃだからダメー!」と佐藤くんのガードが堅い。
「じゃー割岩まで行っちゃう?」てことで下降を開始した。途中の流れはときに伏流してしまいそうなほどの減水ぶりだ。イワナちゃん達、だいじょうぶなんだろうか。みんなで心配しながら進む。
割岩沢が出合う今出までは、悪場も観光スポットもないのでさっさと歩いて1時間で到着。さて、この今出には流れからほどよく上がった良いテン場があるのだが、少し前に入ったパーティーの情報によると、7月末に中・下越から会津にかけて被害を出した豪雨で流木に埋められてしまったとか。出合周辺を眺めると、大きく削られているところや逆に砂礫が堆積しているところがあり、以前とは流れの印象が変わっている。テン場に上がってみると、なるほどいつも安心して眠りこけていた平地には足の踏み場もない程の流木が積もっていた。時間雨量100mmだなんていうとんでもない数字がニュースになっていたが、こんあにひらけた出合でここまで水位が上がるとは・・・。沢や山で遊ぶ以上、この「自然の圧倒的なパワーを忘れてはならないと実感。
この後は休憩もそこそこに釣りの時間がスタートだ。テンカラのケンさん・佐藤くんは渇水+ドピーカンの悪条件を腕でカバーし、悪くないペースで上げている。しかし、釣っては放し釣っては放しで、活かし魚籠はいつまでたっても乾いたまま。そう、魚はみんなチビイワナ・・・。
僕の方は今日もルアー。ここぞというポイントに大きめのミノーを泳がせると、かき揚げサイズのチビイワナが「ウゼーな!」と言いながら道を空けてくれた。こりゃだめだ!
時計が3時を回るころ、すでに僕らはガス欠。釣りも盛り上がらないし、早く燃料を入れないと倒れてしまう。夕沢を前にして引き返す。
いつもなら今出までは流れ下って行けるところもあるのに、残念ながら地味に足で稼ぐしかない。あーダルい。今出からテン場までの登りも行きと同じく1時間でこなし、お待ちかねの宴会になだれ込む。
さあ、今夜からこのテン場で3連泊。明日以降は6人にパワーアップして爆発的に盛り上がること間違いなしだが、3人だけだって負けちゃいない。揃って料理好きということもあって、あっという間にたくさんのツマミが並ぶ。当然、酒も超ハイペース。「今日は練習だからね!」
このテン場での思い出は数々あるが、なかでも強烈なのは2009年のことだろうか。増水し流れに対抗するかのように渓美隊5人でロックな曲を歌いまくり、しまいには対岸のテン場(けっこう離れてマス)からリクエストまでいただいたものだった。
今夜は残念ながらオーディエンス(?)はいないが、そんなのおかまいなし。ビリー缶・ガス缶・フライパン・お椀から川原の石まで、音の出そうなものを手当たり次第に叩きながら今宵もシャウトする3人。洋楽の歌詞など全部、ニャニャニャ〜♪で超テキトウ。きっと5000年前の男たちも、夜な夜な似たようなバカをしていたことだろう。大好きな仲間と焚火を囲み、うまいツマミとぬるい酒を楽しみ、大声で歌う。最高だ!これ以上の楽しみがあるだろうか?こんな夜は永遠に続いてほしい気がする。
我に帰った時、喉は枯れ日付は変わっていた。明日に備えてあわてて就寝!


テン場前の流れ ご覧のとおりチョロチョロです


坊主ベツリもヒザ上で通過


割岩沢に入って最初のゴルジュ帯を進む  昔はメッチャ深かったのになぁ


やっとキープサイズをゲット



今日一日の汗を洗い流す


初日の宴会(あくまでも練習)の始まりだぁー


渓美隊はやっぱりお肉が代名詞  山盛りのしょうが焼きで元気注入!


イワナの命をいただくってことは、骨の髄まで食してあげること!


「骨・ヒレ・皮せんべい」の出来上がり♪


スネアドラム・タムタム・シンバルを配置してっと!


ロックな歌声が早出の渓に響き渡る  シャウトは夜遅くまで続いた・・・

明けて2日目。「い”や”〜、歌いずぎぢゃっだねぇ」とみんなガラガラ声。そりゃ、あれだけ歌えば無理もない。朝食ついでに弁当も作って、さっさと出発だ。今日山越えしてくる3人、もう歩きだしただろうなぁ。
まずは今出まで下る。今日は薄曇りで暑くはないし、このコースは昨日から3回目。さすがに慣れてきてなんだかずいぶん早く着いたような気がしたが、時計を見るとやっぱりちょうど1時間かかっている。今日はさらに下って支沢をいくつか覗いてくる予定だ。今出通過後は所々で泳ぎも交えつつ進む。噂に聞くコスゲ淵は水が少ないので知らぬ間に通過。
広倉沢では数匹のイワナが遊んでくれた。昨日よりはいくらかましだが、型モノはおあずけ。ここまで足を延ばす人も多いらしく、近くのヤブツバキの茂る台地には所々に焚火跡があった。
広倉沢で多少気を良くした僕らは、意気揚々とさらに下流の清水沢と容ヶ谷を目指した。広倉沢出合下流のゴルジュは知らぬ間に通過とはいかず、左岸台地からすすむ。
「いい魚いるかもね〜」なんて期待しながら到着した清水沢出合。見れば沢から吐き出された石がうず高く積み上がっていた。これも7月の豪雨によるものだろうか?「こりゃまいった!」とスルーして容ヶ谷へ。両岸が切り立って水路状の地形をしている容ヶ谷は、水量が多ければかなり厳しそうだ。しかし、今は残念ながらほとんど砂礫で埋まった状態でまったいらだ。流れもチョロチョロ程度しかない。それでも、「せっかく来たし〜」などとスケベ根性を出して駆け上がってみるものの状況はまったく変わらず、たった一匹の魚すら見ることができなかった!
いやー、今日も十分遊んだ。山越えチームも、もうとっくにテン場でくつろいでいる頃だし、僕らも引き返さねば。
スイスイと泳ぎ下った場所を遡るのはなかなか手間がかかり、今出まで2時間程度かかった。その先は今度もきっちり1時間でやっつける。こんな楽しい通勤1時間なら毎日だってかまわないぞ。


2日目は割岩沢から下流を探索  お弁当持って出発だ!


まずは広倉沢を探釣


佐藤くん良型ゲット  こりゃ幸先がいいな


約500mでオヒロ淵  恐ろしいほど深かったのに砂礫にやられてほとんど埋まっていた


オヒロ淵の吐きだしで尺物ゲット♪


広倉沢下のゴルジュ帯を進めるところまで進む  結局は左岸台地からゴルジュ帯を巻いた


清水沢出合  沢から吐き出された砂礫が堆積


容ヶ谷入口  こちらも砂で埋まって悲しい状態


それでも色気を出して探ってみる  魚の影もなし!!


おーコワッ!ひと抱えもあるスズメ蜂の巣  容ヶ谷唯一の収穫!?


せっかくだからと泳いで帰る


広倉沢下の大釜淵で最後に竿を出してみる

テン場が見えてくると・・・いたいた!3人とも無事到着のようだ。山中での待ち合わせは、大丈夫と思ってはいても顔を見るまで安心できないものだ。僕らもホッとして「オーイ、おつかれ〜!」と大声を出しながら急ぐ。が・・・あちらから帰ってくる呼び声にイマイチ張りがないぞ。なんとなくヤサグレた雰囲気が漂っているし、いったいどうしたことだ??

(後編につづく・・・)